theme for love
2006/10/16(Mon)
遠い場所ばかり見つめて
空の青さにばかり悲しみを抱いていた
君はどんな空を描いていたのだろうか
僕は今 手に届きそうな星々の下で
ただ上を見上げているだけ

君を想う日
それは何か小さな寂寥が僕を覆う時で
君に答えを求めるわけじゃなく
ただ聞いてほしいのだと・・・
だけど君は遠い
それでよかったんだろう。
僕はそう、思う・・。




肌を刺すような早朝の風の中で、落ち着き払った空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
10月の澄んだ空気は、僕のありとあらゆる場所までも浸透していって、そんな瞬間だけ自然の中に溶け込んだような心地よさを感じられた。
鼻頭を冷たくしてゆく。冬は間近に迫っている。
まるで君の足音が聴こえるようだった。

君は冷たい雪に攫われていった。
恨めしかった雪も、いつしか美しく思えるようになり、僕はまたひとつ君を残像にした。
今ではもう、記憶が軋み悲鳴をあげることもなくなったし、君は笑顔でいる。

君は今どこにいるんだろう。
決して神を信じなかった僕と、神がかり的なことを信じた君との間で、どうしても相容れない感情が生じていたことを、僕は確かに理解している。
それが二人にとって何の障害でもなかったのだとも、僕は信じている。
同じように風の冷たさを知り、花は美しかったし、また君も綺麗だった。
それだけで世界は同じだと思えた。思い込んでいた。

僕の上に降る星は、君と見た都会のくすんだ星に比べてやはり鮮明で、だからこそ凝視する必要もない。
君が見ていた頭上の星々は、いったい君に何を与えて、君から何を奪っていったのか。
時間か、あるいはもっと別の次元なのか。



『こうして手を伸ばして、あの青い星を掴んでみるの。そうしたら、ううん。そう出来たら、私は何か変われるような気がする。馬鹿みたいだって笑うでしょ?だけどホント。馬鹿げてるけど、そう思う。私は』

君ってホントに無邪気だね。
あの時はそんな言葉を言ったような気がする。
今考えると、無邪気だったのは僕の方なのかもしれない。
決して馬鹿げてなどいないのだと、だけどそれだけではなかった。
君の中で確実に奪われてゆくものがあるとして、僕がそれを与えることは出来なかった。
時間軸は初めから違っていたんだろう。

「星はね、青い星は生きている。赤い星はもうすぐ死ぬんだ。だけど確かに生きているんだと輝いている。だけどね、きらめきは空気の粒子の反射だし、人の瞳の曖昧な加減では見えないこともある。
ほら、君、分かるかい?僕の言いたいこと。」
『分からない。けど、分かる気がする。ごめん、矛盾してるね。だけど違うんだ。なんだ、なんて言ったらいいんだろう?』
「いいよ。僕、それなんとなく分かるから」

僕たちは非常に曖昧な感情を、ひどく曖昧な言葉で理解していた。
だから今も表現することは難しい。
僕は何が言いたかったのか、本当は僕にさえも良く分からなかった。
星の燐光ときらめきが、一生は続かないという事実。
星が生き、そして死へと向かうこと。
事実の事象と、現実の美しさ。
僕たちの間に流れた沈黙ほどには、星は何も語らなかった。
その時だけは、世界が馬鹿げているように思えた。
確かに僕らはそうだったんだ。

君のいない世界で、君の見たことのない星を見上げながら、僕は思う。
あの星のどこかに君がいるとか、見上げた先に君がいるとか、そういうことではなく、記憶の断片にこびりつくように、けれど大切に仕舞われた君の残像が、今、この僕の瞳に映る星を輝かせてくれているのではないか、と。

ごめんね。
言葉がうまく続かない。いや、すぐに遠回りしてしまって、結局何がいいた言いたいのか分からないね。
ほら違うんだ。
僕は君がいなくても幸せだってこととか、愛を今も持っているとか、そういうこと、伝えたかったんだけどね?
ま、そんなこと言わなくても分かってるか。
馬鹿だったのは僕だったんだね。


10月の抜けるような青空の下、僕は暮れゆく空に浮かび上がる美しい星を思い描いた。
切り取られたような闇の中に、点在する所在なげな星々。
ゆき場所を求めて見上げた幾千の人々。涙、悲しみ。
にもかかわらず、不動の威厳と冷酷でもって輝く誇り高い光。
肌を刺してゆく風の中に、確かに自然の息吹を知った。
忘れたように思われた愛する人の温もり。
そんなはずはないと、確かに君が、愛が教えてくれる。
もう雪を恨めしく思うのは止めよう。
僕のために降る雨や星や雪が、また僕が愛する人へと降り注ぐように。


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