孤独感
2007/02/23(Fri)
誰の、何の役にも立てなくて、私の孤独は広がっていく。
無力過ぎる私は、往く場所がなく、声を殺して泣くことぐらいしか出来ずにいた。
悲しみや苦しさが見つからないように、ひっそりとただ静かに片隅で泣いているだけで、後は何が出来たというのだろう…。

心の深遠を責められるような、悲しい言葉が降り注ぎ、私の中を滑ってゆく。

いっそ、無力ゆえに要らないのだと言われたなら、この生の孤独も救われたかもしれない。
いっそ、死んでしまえとでも、愛が言ってくれたなら出来たかもしれない。

泣き叫ぶ場所がなく、泣きつける場所がなく、沈黙を守り、笑顔を守り、孤独を隠し、悲しさを隠し、あと…まだ何をしなくちゃいけないだろう。
何をし足りないんだろう。
生きていることを責められるような、酸素不足の生は窒息しまいと懸命に呼吸を繰り返していて…。

どうしてこんなにも不器用で、こんなにも役立たずで、デキが悪くなってしまったんだろう…。


どうして伝わらないんだろう…。
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魅惑のシルクストッキングス
2007/02/22(Thu)
初春の湿り気のない爽やかな風が吹き始めた。
襟が立つほどの厳しい寒さが去ってゆき、日溜まりがはしゃぎ、人々の顔にも笑顔が灯りだし、心が理由もなく浮き足立つ。
庭先で春の訪れを知らせる沈丁花が咲き始めた。
清々しく甘い香りが、この日差しに似合っている。
花弁の小さなふくらみが無性に愛しい。
私はしばらく独りにしていた窓辺のチェアを引っ張りだすと、庭が見渡せるところに置いた。
そういえば、あのは良くこの窓からやってきた。


「こんにちは」
「やぁ」
「ステキなお庭ね」
「ありがとう。自慢出来るのはこのくらいでね」
「そう?あなたもステキよ」と、良い大人を程よくあしらって微笑するのだった。
ともすれば不健康そうな白い肌は、けれど少女の移りゆく妖艶な魅力の中に溶け込んで、微妙なる美しさだった。
それから少女は、どこからともなくこの庭先にやって来ては、しばらく私と遊んでいくようになった。

「ねぇ、この花はなんて言うの?」
「それは水仙だよ」
「きれい」
「あれは?」
「ん?あれは沈丁花」
「ジンチョウゲ?」
「綺麗だろう?いい香りがするよ」
「ホント!」

その横顔を見つめていると、懐かしい感覚がよみがえってくるのだった。
美しいものは美しいのだと。可愛いものは可愛いのだと。
ただ当たり前のことが、忘れかけていた私の心に、新鮮な風が浸透していくような爽快な気分だった。


その時もまた、少女の若さのように、清々しく芳しい沈丁花が咲き綻び始め、自然と私は少女の訪れを待ち侘びていた。

妖艶な美しさは色を増し、少女は見ているうちに成長してゆく。
過ぎていく時間の速さより、少女が大人へと変化してゆく速度の方が速く思われた。
「見てキレイでしょ?」と少女はある日、陽に満ちた庭で髪をかきあげでそう言った。
「イヤリング?」
「ピアスよ」
「ピアスか。きれいだね」
少女の白さに映える赤いルビーのピアスだった。
素足に赤いエナメルの靴を履いて、少女は少しずつこの庭先から遠ざかって行くのだった。


「ねぇ、先生。このお庭少しお手入れしないとね」
「あぁ、そうだね。少し世話をしないうちにこうだ」
「いつも先生が?」
「そうだよ、僕がしてるんだ」
「大変ね」
「女ほど大変でもないさ」
「あら、そんな大変な女性が好きだったの?」
「貴女くらいの時にはね?」
悪戯気な視線に屈託なく笑う少女の、ある種の快活さが私には心地良かった。



ある雨の日、私は珍しく家を長く空けて出かけていた。
しとしと静かな雨が降り、空は曇天の灰色で重たげであったが、庭の花々は久しぶりの雨を喜んでいるように見えた。
私も傘をさしながら、どこか気分が高揚していた。

夕方、用を終えて家路につくと、庭には一輪の美しい花が咲いていた。
見事な傘の花だった。

「待ってたの?」
すぐに振り向いた少女の腕の中には、一匹の子犬が抱かれている。
「うん。待ってたの。お昼に来たのだけどお留守で。先生、あんまりお出かけしないから、すぐに戻って来ると思って」
何とタイミングの悪い…。そう毒づいても仕方がない。

「その犬、拾ったの?」
「うん…」
小さな逡巡が、待っていた意味を教える。
「飼うの?」
「うん。飼いたい」
「飼いたい…か。飼えるの?」
沈黙をすぐに了解した私は、「僕はわりと淋しがり屋でね。良かったら僕にもらえないかな?」
少女はパッと顔を上げると、どこか複雑そうにけれど美しく微笑むのだった。

「ホント?飼ってくれる?」
「うん、いいよ。だけど僕は不器用でね、庭をいじったり、犬の世話をしたり、自分のことをしたりいろいろは出来なくてね」
「じゃぁ、私、毎日散歩に連れて行くから。ね?それならいいでしょ?」
少女のそんな必死さや、一途さが可愛らしかった。
「そうしてくれると有難いよ」
私はそんなことを言いながら、心から少女の訪れを待っていた。



そんな無邪気な少女も、可愛い子犬の成長が速いのと同じように、急速に大人への階段を登り、そして今は……。


「ねぇ、あなた?見て、キレイでしょ?」
「あぁ、綺麗だよ。でも僕は赤いのがいいよ」
「そう?」


エナメルの靴を脱ぎ捨て上質のスウェードの靴を履き、素足には艶を増すシルクストッキングを履いて、私を誘惑する。

「ねぇ、あなた?キレイな赤いお花があったの」
「あぁ、いいとも。買ってあげるよ」



私の妻はおねだり上手になった。



††††††††††

続き物にするつもりはなかったのだけど(笑)
まぁそれはさておき(笑)

10代の美しい美脚?には、可愛いサンダルに素足。なんても可愛いのでしょうが?(笑)
少し「私」を誘惑しなくちゃいけない「らしい」ので、少女は女になってゆくのでした。
「風船の悪戯」(何時ぞやのブログ参照、笑)あたりから、この怪しげな二人の関係が続いて来たのですが、とうとう結婚したんですね?(おいおい、作者でしょうが!笑)
まっ細かいことは気にしない♪
そういうことではなく。

カクテルの中に「シルクストッキングス」というカクテルがあります。
テキーラベースの、クレームド・カカオと生クリームが入っているため、その口当たりの良さから、シルクのよう。
というわけで、カクテルの怪しさも加わり、ちょっと雰囲気のある名前です。
確かに美味しい。
見た目が良く似たカクテルに、「アレキサンダー」というカクテルがありますが、あれも生クリームが入っていて、ベースがテキーラではなくブランデーです。
個人的には、アレキサンダーの方が好きかな?(笑)まぁ好みです♪
どのくらいメジャーかは分かりませんが、きっとバーでも通じるでしょう☆
一度機会があれば、どこかで飲んでみて下さい☆(甘いから食後がいいな♪デザートみたいで☆)

silkst.jpg

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The End of Enamel Heel
2007/02/19(Mon)
雪どけの眩しい朝に、高く涼やかな声が響いていた。
開け放した大きな窓には、白く清潔なカーテンが揺れていて、そこだけが切り取られた空間のように輝いていた。

少女が照れくさそうに佇んでいたデッキ。
そこには、あの頃と変わらない日溜りだけがはしゃいでいて、少し切なくなった。
時が少女を追いかけていたのか、少女が時を追いかけていたのか。
いつしかパステル色をした少女だけが、ついてゆくことを許されなかった影のように置いてきぼりになり、過去の残像の中に佇んでいた。
日増しに美しく開花してゆく花々のように、手折ることを恐れるまでに輝きを増した少女の笑みは、どうしてなのか屈託のない無邪気な微笑みだった。
それだけが無性に苦しい…。


「ねぇ、パラソルが壊れてしまったの」
唐突に少女が言う。
「傘が?」
「そう、パラソル」

”パラソル”と言い直した少女の頑固さが妙に微笑ましかった。
確かに少女にはその言葉が似合う気がした。

「僕が新しい傘を買ってあげよう」
「ホント?」

屈託のない笑顔が眩しくて、私は恥ずかしくなり少し俯きながら歩を速めた。
少女はカタカタと靴を鳴らして付いてくる。
不規則な靴の音色。

―――カタカタカタ―――
―――カタ カタ カタ―――
―――タタタタタ―――

歩いたり、走ったり。
少女の気まぐれな音色は、どこか楽しいタップのようで心が躍った。

昔…そう少女がもっともっと少女だった頃。
シンデレラシューズという靴があったことを思い出した。
「ガラスの靴」と呼ばれ、少女たちが良く履いていた。
ガラスのように半透明の素材で、美しいメッシュ状の靴だった。
確かにそれはシンデレラシューに相応しい、可愛らしい靴だった。
少女もそんな靴を履いていただろうか。

「ねぇ、貴女は知ってる?シンデレラシューズって?」
「シンデレラシューズ。あぁ、ガラスの?」
「ガラス…というか、そんな風なさ」
「知ってるわ。履いていたの。ピンクのシンデレラシューズ」
「ピンクか…」
記憶の中に佇むシンデレラシューズは、時や時代と共にバリエーションも増えたらしく、私の記憶には当てはまらない。

「軽くて、可愛くて、素敵な音がするのよ」
「あぁ、それだ!」

そう、シンデレラシューズは確かにいい音がした。
少女が歩く度に、ペタペタと可愛らしい音を奏でた。

「そうか、貴女も履いていたのか」
「なぁに、そんな感慨深げに?」

コロコロと少女は楽しそうに笑って、長い髪を手で梳いた。
光に梳ける細く柔らかな髪が、爽やかな風の中に溶けて…ただ愛しく思えた。
陽の光に縁取られた少女の姿は、まるで円光に満ちた神々しさを称えて、わずかに近寄りがたかった。

何時の間にか可愛らしいエナメルの靴を脱ぎ捨てて、少女は少女から女へと走ってゆくのだろう。
可愛い音を奏でた靴は、息を呑むようなピンヒールに変わり、いつか私を悩ますのかもしれない。
パラソルは少女の影を雨で洗い流し、それまで隠されていた美しさを映し出すだろう。
瞳を細めて見た少女の後姿が、妙に歪んで見えた。

(貴女はどこかに行ってしまうのだろうか…)

ふと…そんなことを想って、小さなため息を零した。
少女の自由な生き方が好きで、コロコロと無邪気に笑う微笑みが好きで、泣き虫だけれど素直で、誰かのために流す涙の美しさが愛しくて…。
そんな少女が、あまりにも駆け足で大人になってゆくのが恐ろしかった。

「パラソルが壊れたの」
その言葉に人知れず安堵していた心には、気づかないフリをしていた。
そうすることで、いつまでも少女にエナメルの靴を履かせておきたかったのかもしれない。

私はもう一度小さなため息をつくと、
「パラソルは今度にしよう。今日は貴女に靴を、靴をプレゼントするよ」
と、少女に向かって微笑んだ。

「靴を?どうして?」

”どうして?””どうして?”と問い掛けるその仕草が、やっぱり少女のままで可愛くてどうしようもなくて…。

「どうしても」
悪戯げに笑うと、「へんなの〜?」と言って少女も笑うのだった。
エナメルの靴を脱ぎ捨てた少女は、どこにも走ってゆけないほどのピンヒールを履いて淑女になる。

「ついでに雨が降るといいね!」
「もぅ」

ぷーっとふくれた少女の中に、触れることも躊躇われるほどの優しさと美しさを私は見ていた。





†††††††
リキュールにも、「シンデレラシュー」と呼ばれるものがあります。
写真のように、可愛いシンデレラの靴をかたちどったものです。

Cinderella


シンデレラシューには他にカラーがホワイトとブルーがあり、味も柑橘系のピンクと、メロンのホワイト、ブルーキュラソーがあります♪
素敵なリキュールです♪
飲むには少々手間のかかりそうなリキュールですが(笑)飾っておくのにも良いかもしれませんね☆
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沈黙ノ裏ニ
2007/02/16(Fri)
ほんの少し心が翳って、そんな想いを誰に伝えたら良いのか分からない。
溢れる言葉や感情は其処にありながら、伝える人を持たない。
内に仕舞われてゆくいくつかの切なさは、いくつもの傷痕になっていくような気がした。
喉元まで突き上げる悲しみや切なさは、けっして言葉にも溜息にもなることなく、空中に霧散していった。

この生は、私は、酷く空しく思われた…。

押し込めた想いにどこかが軋んで、それから壊れていって失くなりもせず、残骸だけが浜辺に打ち捨てられたゴミのように転がる。


手を差し出して、…けれど誰に何を言えただろう?

還りたい場所に還れず、帰らなければならない場所に帰れず、往きたい場所がない私の心は、虚しくそして静かに叫びながら沈黙している。

矛盾。

矛盾の仮面をつけて踊るマリオネットのように、表情は堅く重い扉の向こうに隠れ、真実の姿は分からない。

沈黙をすることで酷く荒れた心を慰め、微笑むことで苦しみを隠蔽する。
遠く囁かれる優しい声に、私はまた帰る場所を失い、足を止めた。

どこに往けばいいのだろう…。

還りたいと泣いている心は、必死に安堵出来る場所を求めている。
苦しくて息が詰まりそうだと。
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