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Princess Soleil
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2007/06/01(Fri)
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「あら、いたの?」
『随分なご挨拶だね』 空でさえ嫉妬するほどの美しいBlueのドレスを纏った女は、重厚なドアを開けるなり、カウンターの奥の男を見つけてそう放った。 それなりに歳を重ねてはいるが、どこか子供のようなクルクルと良く動く瞳が少女を思わせた。 Soleil。 ソレイユ 男が彼女に密かに付けたニックネーム。 仕事でしばらくフランスにいた男は、あの弾けるような夏の日差しに、公園をはしゃぎ回っていたフランスの子供たちの笑顔が好きだった。 その横で微笑む母親の円光なる微笑。 その微笑を思わせる女の微笑みが好きだった。 フランスに、ソレイユという名のバーがあった。 ソレイユとは、「太陽」「ひまわり」という意味があって、男にはその言葉の響きも、持つ意味も好きだった。 女が悩ましいドレスや艶かしい仕草をする度に、男には少女の背伸びした仕草のように、幼さが浮いて見えるのだった。 確かに豊満な若々しい肉体は妖艶に見えたが、男にはソレイユの光のように、もっと爽やかな美しさに思えた。 「貴男は何を?」 『僕はドライ・マティーニを。貴女は?』 「そうね?私はグリーン・マルガリータを」 『へぇ、グリーンの?』 「えぇ。ドライ過ぎるのよ、ホワイトは」 女は手馴れた風にスツールに軽く腰掛けると、小さなエナメルのバッグを横に置いた。 お手付きの女であることは、どことなく知れた。 左手に指輪をしているわけでもなく、女からそんな話をしたこともなかったが、女の微笑には独りでは出すことの出来ない色が薄膜のように巡っていて、その距離が男には心地良かったこともある。 危険な恋を愉しむほど若くない男にとって、女はやはり”ソレイユ”の「少女」でなければならなかったのかもしれない。 「マティーニお好きね?」 『フランスへ行った時に覚えた』 「そう。フランスで」 『貴女は?』 「私?私のなぁに?」 『貴女は誰に酒を?』 ふふふ…と意味ありげな微笑を浮かべ、気取ったカクテルグラスの脚を、紅いマニキュアの塗られた細い指先で軽くつまむと、涼しそうなマルガリータを小気味良く喉に流した。 『いいヒトがいたわけだ?』 どことなく興味を惹かれた男は、いつになく詮索好きの下世話な若い男のように、女に質問を投げかける。 「紅いルージュを引いた頃に、出会った男から。かしらね?」 『ほう。赤いルージュね?意味深だね』 「貴男も何度か、どなたかにお酒を教えたんでしょ?」 今度は女の方が意地の悪い微笑みで男を笑い、この先の詮索は無用だと遮った。 『誤解だね』 男は少し視線を落として、切なそうに瞳を細め、残りのドライ・マティーニを干した。 確かに酒を教えたことはあったが、男が愛をもって酒を楽しんだのは、そうあったわけではなかった。 二人はしばし言葉を仕舞い、互いに何かを探ることもなく、ムードミュージックとマスターがシェークするリズミカルな音色を聴いていた。 女の座るスツールに斜めに当たる照明が、女の右側から綺麗な陰影を浮かび上がらせ、女の長い睫の影がチークを差した頬に落ちている。 暖かな照明が射しているにもかかわらず、女のどこか蒼褪めた顔色が少し気になった。 『最近は良く此処へ?』 「えぇ。それほど強いわけでもないのだけれど」 『そうだね。いつも2杯ほどグラスをあけて仕舞だ』 「貴男はお忙しいの?最近はお見かけしなかたけれど?」 『まぁね。それより、』 と、言いかけた男の言葉をさえぎるように、「もう一杯、いただこうかしら」と言って、グリーンのカクテルを飲み干した。 男は問い掛けた言葉を、何処に片付けるべきなのか…考えあぐねていた。 少女のはずだったソレイユは、微光に照らされ、その横顔に円熟した切なさと悲しみを抱き美しさを増している。 女の頬に落ちる睫の影が、まるで泪の痕のように物悲しく映った。 投げかける言葉を失った男と女の前に、爽やかなグリーンのマルガリータが運ばれてくる。 脚の長いカクテルグラスに注がれた、薄緑色のマルガリータが微かに揺れて、女の瞳の中にグラスが小さく映っている。 『いつだったか。ブルーのマルガリータを飲んでいたね?』 「えぇ。良く覚えていらっしゃるのね」 『女性が飲む酒はね?』 「まぁ」 唇の端を少し持ち上げて、気のなさそうに笑んだ女は、口を閉ざす理由付けのようにマルガリータを口に含んだ。 女の冴えるドレスの青。そして緑のマルガリータ。 二杯目のマルガリータも小気味良く干した女は、バッグから手鏡を取り出し紅いルージュを気にした。 薬指でルージュの端をスッと撫でた姿が眩しかった。 『好きなんだ?マルガリータ』と問い掛けた男に、女は鏡を見つめたまま 「わたくし、マルガリータですの。わたくしは、こんなに素敵なカクテルを残したりは出来ないけれど」 ”それじゃ、また。” と、鏡を小さなエナメルのバッグに仕舞うと、素早くスツールを下りて、滑らかな身体をひるがえした。 恋人を狩猟で失った切ない悲恋を悼んで作られたマルガリータ。 ”わたくし、マルガリータですの”と微笑みさえ感じられる言葉の哀しみが、男には胸に響き突き刺さる思いがした。 ソレイユの少女は、大人になることを拒んだかのように、無邪気で美しい。 何故、女がソレイユに思えたのか。男はようやく解ってきた気がした。 男は残っていたドライ・マティーニを飲み干し、女がバーを去ったのをもう一度確認して、グリーン・マルガリータをオーダーした。 ”お待たせ致しました” 目の前に広がるフォレストグリーンの美しいカクテルを見つめ、男は泣きたくなるような息苦しさを覚えた。 鼻腔をくすぐる爽やかなテキーラの芳香は、悲しい出来事を消してゆく夏の清々しい太陽のような気がした。 男は、もう随分前に失った、彼の、彼だけのソレイユのことを思い浮かべながら、夏の暑い陽差しに輝いた愛しいソレイユのことを想った。 ”お前…元気か” ††††††††††††††††††††††††††††††††††††† あーーー。(笑) というのも、元々はグリーン・マルガリータの話を書きたかったわけではなくなく…(笑) 「プリセンス・メリー」というカクテルにちなんで、「プリンセス・ソレイユ」という名を付けたはずなんですが(まぁ、細かいことは気にしない、笑 )マルガリータは、お話の中に書いた通り(以前、マルガリータについての作品でも触れましたが) 狩猟に出かけた恋人たちがいて、彼女が流れ弾に当たり死んでしまったことを悲しんだ彼が、カクテルにして彼女への想いを残した。と言われている、有名なカクテルです。 そんな悲しみとは裏腹に、メキシコ産のテキーラの陽気な明るさのように爽やかな口当たりが特徴です。 本当はグリーン・マルガリータではなく「ミドリ・マルガリータ」と呼ばれています。 メロン・リキュールの中に、サントリーから発売されている「ミドリ」リキュールがあります。 ノーマルのマルガリータには、ホワイトキュラソーが使用されていますが、代わりにメロン・リキュールを使用したものが、「ミドリ・マルガリータ」です。 そして、タイトルにして失敗した「プリンセス・メリー」ですが(笑) これはアレキサンダーというカクテルのバリエーションの一つで、アフターディナー用で、デザート感覚で飲むカクテルです☆ ドライジン。 カカオ・リキュール・ 生クリーム。 材料をシェークして作ります。生クリームを使用するカクテルは、ミルクの臭みが残りやすいので、しっかりシェークする必要がありますが、美味しい!(笑) チョコレート感覚で、女性には好かれるカクテルではないかと思います☆ 本当はもっと、「男」を惑わすようなプリンセス?ソレイユな女になってほしかったんですが(失敗・・・笑 ) |
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