雪どけの眩しい朝に、高く涼やかな声が響いていた。
開け放した大きな窓には、白く清潔なカーテンが揺れていて、そこだけが切り取られた空間のように輝いていた。
少女が照れくさそうに佇んでいたデッキ。
そこには、あの頃と変わらない日溜りだけがはしゃいでいて、少し切なくなった。
時が少女を追いかけていたのか、少女が時を追いかけていたのか。
いつしかパステル色をした少女だけが、ついてゆくことを許されなかった影のように置いてきぼりになり、過去の残像の中に佇んでいた。
日増しに美しく開花してゆく花々のように、手折ることを恐れるまでに輝きを増した少女の笑みは、どうしてなのか屈託のない無邪気な微笑みだった。
それだけが無性に苦しい…。
「ねぇ、パラソルが壊れてしまったの」
唐突に少女が言う。
「傘が?」
「そう、パラソル」
”パラソル”と言い直した少女の頑固さが妙に微笑ましかった。
確かに少女にはその言葉が似合う気がした。
「僕が新しい傘を買ってあげよう」
「ホント?」
屈託のない笑顔が眩しくて、私は恥ずかしくなり少し俯きながら歩を速めた。
少女はカタカタと靴を鳴らして付いてくる。
不規則な靴の音色。
―――カタカタカタ―――
―――カタ カタ カタ―――
―――タタタタタ―――
歩いたり、走ったり。
少女の気まぐれな音色は、どこか楽しいタップのようで心が躍った。
昔…そう少女がもっともっと少女だった頃。
シンデレラシューズという靴があったことを思い出した。
「ガラスの靴」と呼ばれ、少女たちが良く履いていた。
ガラスのように半透明の素材で、美しいメッシュ状の靴だった。
確かにそれはシンデレラシューに相応しい、可愛らしい靴だった。
少女もそんな靴を履いていただろうか。
「ねぇ、貴女は知ってる?シンデレラシューズって?」
「シンデレラシューズ。あぁ、ガラスの?」
「ガラス…というか、そんな風なさ」
「知ってるわ。履いていたの。ピンクのシンデレラシューズ」
「ピンクか…」
記憶の中に佇むシンデレラシューズは、時や時代と共にバリエーションも増えたらしく、私の記憶には当てはまらない。
「軽くて、可愛くて、素敵な音がするのよ」
「あぁ、それだ!」
そう、シンデレラシューズは確かにいい音がした。
少女が歩く度に、ペタペタと可愛らしい音を奏でた。
「そうか、貴女も履いていたのか」
「なぁに、そんな感慨深げに?」
コロコロと少女は楽しそうに笑って、長い髪を手で梳いた。
光に梳ける細く柔らかな髪が、爽やかな風の中に溶けて…ただ愛しく思えた。
陽の光に縁取られた少女の姿は、まるで円光に満ちた神々しさを称えて、わずかに近寄りがたかった。
何時の間にか可愛らしいエナメルの靴を脱ぎ捨てて、少女は少女から女へと走ってゆくのだろう。
可愛い音を奏でた靴は、息を呑むようなピンヒールに変わり、いつか私を悩ますのかもしれない。
パラソルは少女の影を雨で洗い流し、それまで隠されていた美しさを映し出すだろう。
瞳を細めて見た少女の後姿が、妙に歪んで見えた。
(貴女はどこかに行ってしまうのだろうか…)
ふと…そんなことを想って、小さなため息を零した。
少女の自由な生き方が好きで、コロコロと無邪気に笑う微笑みが好きで、泣き虫だけれど素直で、誰かのために流す涙の美しさが愛しくて…。
そんな少女が、あまりにも駆け足で大人になってゆくのが恐ろしかった。
「パラソルが壊れたの」
その言葉に人知れず安堵していた心には、気づかないフリをしていた。
そうすることで、いつまでも少女にエナメルの靴を履かせておきたかったのかもしれない。
私はもう一度小さなため息をつくと、
「パラソルは今度にしよう。今日は貴女に靴を、靴をプレゼントするよ」
と、少女に向かって微笑んだ。
「靴を?どうして?」
”どうして?””どうして?”と問い掛けるその仕草が、やっぱり少女のままで可愛くてどうしようもなくて…。
「どうしても」
悪戯げに笑うと、「へんなの〜?」と言って少女も笑うのだった。
エナメルの靴を脱ぎ捨てた少女は、どこにも走ってゆけないほどのピンヒールを履いて淑女になる。
「ついでに雨が降るといいね!」
「もぅ」
ぷーっとふくれた少女の中に、触れることも躊躇われるほどの優しさと美しさを私は見ていた。
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リキュールにも、「シンデレラシュー」と呼ばれるものがあります。
写真のように、可愛いシンデレラの靴をかたちどったものです。

シンデレラシューには他にカラーがホワイトとブルーがあり、味も柑橘系のピンクと、メロンのホワイト、ブルーキュラソーがあります♪
素敵なリキュールです♪
飲むには少々手間のかかりそうなリキュールですが(笑)飾っておくのにも良いかもしれませんね☆