十日の菊
2008/03/31(Mon)
しばらくぶりに逢う貴男は変わりなくて、優しい言葉が辛辣にさえ感じられた。
時を巻き戻すことも、二人が美しい絵画から抜け出すことも不可能だけれども、
まるでそれは小さな過ちのように心をざわつかせている。


優しくただ寄り添うだけの少し遠い場所から、微かに届くわずかなシグナルを頼りに、
二人は導き出された数字の点と点をかき集めて持ち寄りあう。
そんなものが寂しさを埋めるとも、悲しみを減少させるとも思わないけれど、そうすることが自然だった。


吐露した真実だけが舞い上がって空に溶け、二人の曖昧な愛だけが沈殿して、僅かに照れを含んだ笑みを浮かべながら、言葉はあまりに陳腐で切ないだけだった。
愛を囁くにはあまりにも遅すぎたし、あまりにも臆病すぎた二人の、非常に潔癖に見える虚像の愛のカタチは、いつまでも桜の花びらのように弱弱しく頼りなげで…。

脆弱な精神や肉体を疎むことよりも、そんな繊細さや弱さを生かす何かがあると言った貴男の言葉が、今の冷え切った心を掠めてゆく。


居場所を探して探して、見つからない。
そんな寂しさと孤独は言葉を凍りつかせ、愛さえも侵食してゆく。
「貴女は絶望しかけている」と言った貴男の辛辣で切ない言葉が、いつまでも心を震わせる。
そうではないのだと、必死で声を嗄らしてはみても、貴男のまっすぐな瞳が躊躇いを絡めとっていく。


頑張らなくちゃ。頑張らなくちゃ。
切りのない切迫が後ろから追いかけてくる。
どうしようもないのに、どうにかしなくてはいけなくて。
今にも躓きそうな足を懸命に走らせて、前は霧のように霞んでいる。
涙を拭って、走って走って。まだ走り足りない。


もう走り続けることに疲れ果てている。
日向ぼっこのように安らいだ光だけが充満するような愛がほしい。
枯渇しそうな言葉と想いが必死で喘いでいる。


身体だけが遠い場所を行ったり来たりしながら、心は何処にもない。
ずっと安らいだ場所は、いつしか居心地の悪い場所へと変わってゆく…。
それが寂しいのだとは云えないまま。

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